2022年5月9日月曜日

ファスト映画

 大手の映画会社が「ファスト映画」=ストーリーが短時間で分かるようにした編集画像をユーチューブ等にアップしたとして多額の損害賠償を求めて注目された。

  近年「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重視する風潮が強い。多くの情報を入手したいと思えば、数多い映画から「はずれ」を引きたくない気持ちで、どんな映画を見ようかと、あらかじめ選ぶのも、気持ちは理解できる。しかし、あらすじを知っていることと作品として「鑑賞」することは別物である。 
  ここ3年、志向館の予備校で現代文を教えていた。あらすじだけわかっても共通テストの解答を導き出すことなどできないこともある。「…その心構えについては受け止めたいような思いが心をかすめた。」(2022共通テストより)は小説文の正解の選択肢だ。本文を十数行読んでみると「その心構え」と言われる些細な行動が記されているのがわかる。本番の試験ではどの受験生も、きちんと読もうとするが、小説を読み解く修行の場は映画やドラマにも多々ある。「細い首に支えられた坊主頭・・・」(2022共通テストより)中学生になったばかりの少年で、外観にあらわされるバランスの悪さは、心の不均衡をも暗示している。
  共通テストを引き合いに出すのは高校生諸君に言いたいからだ。映画作りに取り組む監督は小説家と同じだ。1カットを何度も繰り返しOKが出る。それは監督が微細な表現を通して「あじわい」ある作品を作ろうと必死だからだ。小中学生のころから、本を読むことと国語の成績に相関があるといわれるのは、本から「あじわう」修行をしているからだ。映画やテレビドラマでも同じで、監督と迫真の演技の役者が作る小説である。全部見終えて、つまらぬ作品と決めるも「また良し」である。同様に「あじわい」を求めてドラマの1作品を通して見て「つまらぬ」と判断するもまた国語力になる。