2024年3月17日日曜日

核融合発電


朝日デジタル新聞より






 
 2004年東京地裁の判決で「小企業の貧弱な研究環境の下で、個人的能力と独創的な発想により・・・世界的発明を成し遂げた稀有(けう)な事例だ」として青色LEDの発明者に会社が200億円を支払うように命じた判決文の一部だ。稀有な事例の主人公は世界中が科学者として尊敬をやまない中村修二先生だ。
 先生が今取り組んでいるのは核融合発電だ。「核」といっても従来の核分裂の熱を利用するものとは違い、レーザーを使い炉の中で核融合反応を起こし、高速で飛び出してくる中性子を厚さ1mのブランケットと呼ばれる部分で受け止める。ブランケットで受け止められた中性子は速度を落とし、その落ちた速度に相当するエネルギーが熱に変わるそうだ。この中性子の運動を熱源に変えるところが従来の原子力発電と異なる点だ。原子力発電は核分裂だ。一気に分裂させると原爆である。
核と聞くとすぐに「危険」というのが第一印象だが、中性子しか発生しない装置では危険はない。また、何かが起きてもレーザーを止めれば融合は止まる。実用化は今世紀の中ごろ以降だそうだ。
 先生は朝日新聞のインタビューで「戦争を防ぎたい」とおっしゃった。すべてではないが、エネルギーに絡む利権の問題が、多くの戦争の背後にある。核融合発電が実用化されると、資源を独占している数少ない国の影響力が徐々に減る。いつか大きな国も小さな国も必要に応じた電力が自給自足で生産可能になる日も夢ではない。
 そんな先生は今、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校の材料物性工学部教授である。リクナビNEXTの取材で、先生は「アメリカの学生は大きいリターンを期待する人は独立するし、そう望まない安定志向の人は大手企業に行く」と述べている。さらに、「日本は悲惨で、誰もが大手企業に入りたがって、優秀な人もそうでない人も『永遠のサラリーマン』をやっている」と続けている。
 でも、悲惨と言われると、少し悲しい。「自分で考えた発明を自分の力であることを明確にし、発明したものをさらに育て、会社を作って生産ラインを構築し、広く世に普及させ、名を馳せる。」まさにアメリカンドリームだ。この前提に日本の学生を見ると確かに悲惨かもしれない。
 先生がアメリカで研究を続けているのは理解できる。たぶん、先生のような偉業を目指す若者の指導に携わり、かつ、ご自分の研究も進めやすいのだと思う。全人類のため頑張ってください。
 ところで、先生にお願いがあります。今の日本の教育の仕組みでは相変わらず『永遠のサラリーマン』は続きます。小学生くらいのころから、能力や考え方で突出する子にうまく対応できていないようです。もっと自由な発想を育てないとカリフォルニア大学の生徒のようにはならないと思います。義務教育のあり方に立ち返って、独立心を育てる教育内容のご提言をお願いできないものでしょうか。